事件の被害者を実名で報じるべきか、匿名かー。社会に大きな反響を呼ぶ事件だけでなく、日々の事件の取材でも、記者はどう報じればいいのか、その度に判断を迫られます。京都新聞では年々、事件事故の報道基準を見直しています。京アニ事件の取材で頭によぎったのは、過去にさまざまな事件現場で、遺族から預かってきた言葉の数々でした。 【写真】台風の中でも京アニ犠牲者悼み続けた京都の寺の1カ月 「勝手に息子の名前を消さないでくれ」。44人が死亡した2001年の新宿・歌舞伎町の雑居ビル火災で18歳の息子を亡くした父を4年後に取材したとき、そう言われました。日本最大の歓楽街で起きた火事で、警視庁は犠牲者全員の氏名や住所を報道提供したものの、報道各社の対応は割れました。 その場にいたことを知られたくない人がいることは容易に推測できます。ある新聞は実名を掲載し、ある新聞は匿名にしました。 「自慢の息子だった。秀悟は死を