緖言 普通敎育の程度を越えて,初等數學を修むる人の參考に適せる書籍の,本邦出版界に殆ど絕無なるは,著者の私に憾とする所なり.然れども初等數學の範圍は廣大にして,其分科は繁多なり.今其全般を通じ,細目に入りて,普く此缺陷を塡充せんこと,短日月を以て成さるべき事業に非ず.此小册子は主として材料を算術の範圍內より採り,其最重要なる問題を選み,數學最新の發達によりて占め得たる立脚點より之を觀察して,成るべく簡明なる解釋を試む. 普通敎育に於ける算術の論ずる所は一見甚卑近なるが如しと雖も,若し深く問題の根柢に穿入せんとするときは,必しも然らず.夫れ敎師は其敎ふる所の學科につきて含蓄ある知識を要す.算術敎師が算術の知識を求むる範圍,其敎ふる兒童の敎科用書と同一程度の者に限らるゝこと,極めて危殆なりと謂ふべし.確實なる知識の缺乏を補ふに,敎授法の經驗を以てせんとするは,「無き袖を振はん」とするなり,是を