近年、コロナ禍のなかで中国のジャーナリズム界の大物が日本に移り住んだ。その名は王志安。かつてCCTV(中国中央電視台)で人気報道ドキュメンタリー番組の調査記者および解説員を務めていた、中国では顔と名前が広く知られている人物だ。彼は学生時代に天安門事件のデモに参加した経歴を持ち、CCTVでも体制との距離感を保って、中国社会の闇をえぐるドキュメンタリー報道を手掛けてきた。 国営放送の編集委員だった点では、日本で例えるならば池上彰クラスの知名度と影響力があった人物だ(仕事の方向性はちょっと違うが)。当然、池上彰が自民党や公明党やNHKの事情を知るのと同じく、王志安も中国の権力やプロパガンダメディアの表と裏を非常によく知っている。そういう人物が、いまや中国を見限って海外に脱出する時代なのである。 彼は天安門事件から30年が経った2019年6月4日、673万もフォロワーがいた「微博」(中国のSNS)
やればやるほど呪術化する、AI画像錬成について。 以下は、その道の専門家にはメッチャ怒られるかもしれない、雑なロジックと制御講座。 いちおうメジャーなサービスでは、共通して動作するノウハウ(DALL-E2, MidJourney, StableEiffusion, DiscoDiffusion, crayon, dall-e mini 他)。 雑に理解する画像AIのしくみ対話型のAIにとって、呪文プロンプトとは画像錬成の方向性ベクトルを定めるものにすぎない。 たとえば、以下は「I love apple」で錬成された画像の例である。どうにも、ふわっとしたものが出てくる I Love Apple「Apple」という方向性ベクトルは、「リンゴ」「青リンゴ」と「アップルコンピューター(旧レインボーロゴ」「アップルコンピュータ(新ロゴ)」など、複数の可能性を同時に持つからだ。 つまり、「Apple」
2022.08.17 イギリスの作家、ローズマリー・サトクリフの名作「第九軍団のワシ」については、このコーナーで以前にも触れたことがあるような気がします。 ローマ時代のブリテン島に駐留していたローマ帝国の第九ヒスパナ軍団が、ハドリアヌスの長城を越えてさらに北に進軍した後、忽然と姿を消し、主人公がその軍団のシンボルで、奪われたワシの像を見つけ出して持ち帰るというストーリーです。 ハリウッド映画にもなった有名な作品です。 この第九ヒスパナ軍団は、実際に歴史から忽然と姿を消しています。 ローマ帝国には数十の軍団があり、それぞれの歴史が記録されています。 しかし、この第九ヒスパナ軍団は、突如、ローマの歴史から姿を消し、いつ、どこで、なぜ、消えてしまったのか記録が残っていません。 そのため、第九ヒスパナ軍団に何が起きたのか、これまで何人もの学者がその謎に取り組んできました。 ローマのすごいところは、
疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために人と人が会う機会があきらかに減った。わたしはそれに危機感をおぼえ、人とのコミュニケーションの場や出会いの場を工夫して増やした。 友人が減ってもかまわない人もあるのだろうが、わたしはそうではない。若いころから意識的にさまざまな形式で親しい人をつくり(形式というのは友人とか恋人とか、そういうのです)、その人々によくするように心がけ、長期的にはそれが返ってくることを期待してやってきた。わたしにとってわたしを大切にしてくれる他者は運命のように与えられるものではなく、また一度得たらずっと持っていられるものでもなく、自分から獲得しに行き、相互に定期的にその必要性を判断するもので、だから原則として時が経てば減るものだ。 わたしにこのような感覚が芽生えたのは十九歳のときである。それまでは環境によって人間関係を与えられるような感
Executive Summary タイトル通り、ポランニー『ダホメ王国と奴隷貿易』の全訳がおわりました。 先日、半分まで終わったポランニー『ダホメ王国と奴隷貿易』 cruel.hatenablog.com 全部終わった。 カール・ポランニー『ダホメ王国と奴隷貿易』(全訳、pdf 4.8MB) まあ、こうさ、訳してもさ、どうせだれも読みはしないんだよね。「スゲー」とか「感謝」とかコメントはつくんだけどさ。まあ君たちのためにやってるわけじゃないのでいいんだけど、ときどききょむかんはあるよな。でも、おもしろいよ。 書き方は下手クソで、おんなじ事何回も言っててアレだ。もう少し長生きしていればきちんと手直しできたのかも、でもなかなかおもしろいし、しょせんこの仕組みが一過性ではあったことは、ポランニーも認識しているんだね。現代世界でこんな仕組みが成り立たないのは、彼も知っている。その一方で彼は市場経
[Noah Smith, “Weebs!” Noahpinion, April 11, 2021; reposted April 7, 2023] 【2023年4月7日の追記】この2週間を日本で過ごしていた間,現地のスタートアップ創業者やベンチャーキャピタリストやコンサルタントやあれこれの友人に,「ウィーブ」って単語を聞いたことがあるかって尋ねたけれど,誰ひとりとして知らなくて,びっくりした.なぜって,日本の文化製品によって,世界規模のサブカルチャーが生まれてるのに,他ならぬ日本にいる人たちは,そんなサブカルチャーが存在してることにほぼ気づいてすらいないんだもの.このサブカルチャーは,世間の隅っこの存在でもない――アニメにもなった『SPY×FAMILY』の原作最新刊は,今週,北米でベストセラー1位になっているし,ウクライナの前線に身を置いてる兵士たちはストレス発散のためにピカチュー・ダンス
[Noah Smith, “The Japan that Abe Shinzo made,” Noahpinion, June 4, 2022] この半世紀で最重要の首相がもたらした3つの大きな変化 今回で,日本に関するシリーズは5本目になる.これが最後だ.第1回目(翻訳)では,日本の生活水準が低めなことを嘆いて,現金ベースの福祉政策を提案した.第2回目(翻訳)では,日本が経済成長を加速させるのに使えそうな産業政策をいくつか提案した.第3回目では,日本の停滞した企業文化とその直し方を論じた.第4回目では,日本のポップカルチャーに関する2冊の本の書評を書いて,日本が経済面で衰退しつつもそのポップカルチャーが世界を制覇したあらましについて述べた. この20年というもの,定期的に日本を訪れている.でも,今回の日本旅行ではとくに強い印象を受けた.2002年にはじめて日本に来たときから,この国の感触
Executive Summary ポランニー『ダホメ王国と奴隷貿易』の既存翻訳がダメときいて訳し直しました。 昨日のエントリで、ダホメ経済の話をしたけど、そのときに読んだ『経済と文明』こと『ダホメ王国と奴隷貿易』。 cruel.hatenablog.com 翻訳が半分まで終わったので、とりあえず公開。楽しい奴隷取引の部分はこれからだけれど、ここまでの話でも、17−19世紀のダホメ経済のおもしろさはわかる。 カール・ポランニー『ダホメ王国と奴隷貿易』(全訳、pdf 4.8MB) すでに栗本慎一郎他の邦訳があって、あまり評判がよくないことは述べた通り。ただ訳してみると、結構晦渋な英語を使っていて、未完成で終わったこともあり、論理的におかしかったり推敲が足りなかったり凡ミスっぽかったりする部分もあるのは事実なので、少し難しめではある。現代の普通の英語の感覚でやると、ちょっとつらかったかも。 経
Executive Summary 朝日新聞『プーチンの実像』(朝日新聞社、2015/2019) は、日本のぶら下がり取材的にプーチンが日本や自分たちと行った会見やその周辺人物のインタビューをあれこれ行っているが、明確な視点がないために、それが単なるゴシップのパパラッチに堕している。そのゴシップの価値にゲタをはかせようと、歪曲による祭りあげまで行ううえ、プーチンの軍事的な意図についてまったく触れず、このためプーチンは外国に対し、主権を持っているかとかいう抽象的な視点で判断を下しているという、ナンセンスな主張を行う。そしてそれは最終的に、日本はアメリカのイヌで主権がない、北方領土を返してほしければ日米安保を廃止して主権を回復せよ、という信じられない主張を暗に匂わせる、得たいの知れないプーチンの走狗本と化している。 ぼくも人並み以上にミーハーなので、ウクライナ侵攻が始まってから、いろいろプーチ
ベンヤミンは、政治について多くは語っていない。その主たる関心は、芸術批評と美学に向けられていた。私は拙著『文学部という冒険』で現代芸術の政治性を強調し、ベンヤミンの美学にも言及したので、その政治哲学的含意について論じておきたい。 もともとドイツ社民に対して深い軽蔑を抱いていたベンヤミンは、俗流マルクス主義に対しても何の共感も持たなかった。アーシャ・ラティスを通じて伝えられたロシア革命には大きな期待を寄せたが、それも公式のマルクス主義理論とかボルシェヴィキの組織に対してではなく、そこに示された新しいエトスやモラール(士気)に対してであったろうと思われる。 結論から言えば、私はマルクス主義をベンヤミンによって刷新することを期待する多くの理論家と違って、むしろマルクス主義から、とりわけマルクス主義の唯物論や自然主義から切り離すことによって、ベンヤミンの政治哲学の革命的意義を生かし得ると考えている
2022.05.02 2022年4月のNHKスペシャルに対する「合格発表」: 前半はぎりぎり合格、後半は不合格 カテゴリ:人生観・テレビ・芸能人 2022年4月に放送されたNHKスペシャル「数学者は宇宙をつなげるか? abc予想証明をめぐる数奇な物語」(=完全版(90分)+簡略版(60分))を閲覧しました。NHKという看板(やその看板から推測される潤沢な予算)と立派に釣り合う、高精細なCG技術や世界規模の取材ネットワークとは裏腹に、残念ながら、多くの視聴者の誤解を招くような、様々な不正確な内容もありました。誤解や不正確な情報の拡散に歯止めを掛けるためにも、また最も中核的な当事者である私自身の考えに関する明示的な記録・「証言」を残すためにも、番組内の不正確な内容について、この度、ブログ記事という形で補足的な解説を公開し、警鐘を鳴らすことに致しました。 番組の「前半」の評価
我らが偉大なhicksian 様のこのツイートで紹介されていたブログ記事、とてもおもしろい。 broadstreet.blog この著者はMITのソ連ロシア史教授、エリザベス・ウッズ。プーチンは、ヒル&ガディの現時点ではベストなプーチン伝「プーチンの世界」で紹介されている、「プーチンは歴史の男だ」というまとめを敷衍して、その「歴史」というのがおとぎ話に近いネトウヨ妄想なのだ、という点を指摘している。 プーチンの世界―「皇帝」になった工作員― 作者:フィオナ・ヒル,クリフォード・G・ガディ新潮社Amazon このブログでは、その妄想ぶりについてかなり細かく指摘されているけれど、基本的にはこれまでしょっちゅうお目にかかった、大ロシア帝国復活こそが歴史的必然であり、民族の悲願なのであり、それを西側がじゃましくさっておるのよ、という話。いやそれよりひどくて、ロシアは昔から、優しい民主的な共存共栄の
斎藤環『アーティストは境界線上で踊る』(みすず書房)刊行記念のトークショー、 斎藤環×岡崎乾二郎 「アートに“身体”は必要か」 を熟読した(掲載は『みすず(no.563)』2008年8月号)。 これを私は、美術批評であると同時に、ひきこもり臨床論として読んだ。 岡崎乾二郎の議論は、斎藤環の「発想のあり方」へのあからさまな批判なのだが、斎藤は最後までそれに気づいていないように見える。 私はこの対談を、ひきこもりや就労支援の関係者にこそ読んでほしい。 誰かの努力や存在が社会的に排除され、誰かがぬくぬくと「内側」にいることになっている*1。 そこに批評を口にするときの態度の違いは、そのまま支援案のちがいになる。 排除された努力や存在を受け止めるときに(あるいは無視するときに)、どんな発想が必要なのか。 作品であり、労働過程である私たちは、単に全面受容されるべきではない。 では、どんな厳しさが必要
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く