題名の『アブソルート・コールド』とは、作中に登場するガジェット「アブソルート・ブラック・インターフェイス・デバイス(ABID)」と、舞台となる都市の非情なたたずまいを示しているのだろう。ウィリアム・ギブスン直系のサイバーパンクである。 ABIDは、ハイテク大企業、佐久間種苗が開発し、極秘裏に見幸(ミユキ)市の警察へ提供されたばかりの技術で、遺体の心象空間を走査することができる。その走査をおこなう適性を備えた一員として、来未由(クルミヨシ)は、刑事課に新設された鑑識微細走査係に抜擢された。それまで彼が所属していたのは、見幸市へ不法に入りこむ者を排除する市境警備隊(武装)である。見幸市は孤立政策を取っており、その統治は佐久間種苗の高度AIが担っているのだ。佐久間種苗は遺伝操作による種苗事業から出発した企業で、いまでは機械制御技術、ネットワーク、ソフトウェア開発においても先端を走っている。 市境