戦後以来の飲み屋街をたずね、飲み歩き、古老たちの昔話を聞き集めてきた文筆家・フリート横田氏。最新刊『横丁の戦後史』(中央公論新社)が話題ですが、令和の今も、昭和のたたずまいを残す「横丁」があると言います。その歴史をひもとき、現在の姿も見つめるエッセイ。 独特な「気配」が生まれた瞬間 「あの子は19歳で家出してうちに来てね」 ふふふと静かに、温かに笑う、丸眼鏡に口ひげの紳士、外波山文明(とばやまぶんめい)さん。今回私は、新宿ゴールデン街にある外波山さんの店「クラクラ」を訪れた。 外波山さんは長年にわたって営業者たちの組合(※1)の長をつとめてきた街の長老格である。1971年に「はみだし劇場」を立ち上げ、全国各地の街中で芝居をして回るなど、野外劇を中心に活躍してきた俳優・演劇人としての顔も持っている。映画・テレビへの出演も数多い。 劇場という閉じた空間から飛び出して、テント芝居や野外劇など束縛