筆者の仕事は精神科医である。「うつ病」が増加したと言われるが、本当の重症の「うつ病」の姿を知っている人の数は、多くはないかもしれない。病気のために全く思考や行動が妨げられていて、食事のような基本的な生活の動作も自力では不可能になってしまう。あるいは切羽詰った堂々巡りの思考にとらわれてしまい、常に自殺のことを考えている、そういう状態に陥ることがある。「うつ病など怠けで病気ではない」という大胆な主張をされる方が現在でも散見される。しかしそのような方でも、もし重症の「うつ病」患者の姿を見れば、これが明らかな脳や神経系を中心とした身体的な基盤のある病気であり、即座に強力な治療的介入が必要になることを納得いただけるだろう。そして、十分な治療を行って症状が改善し、必要な時間をかけて徐々に職場に復帰し、寛解状態にいたるという経過は、本人にとっても周囲にとっても理解しやすい。 それと比べると軽症の方が、本