齋藤君子 ヤランガに雁のとまる時 北方民族の語り1 ~シベリア先住民族の口承文芸~ シベリアの口承文芸の特徴 世界にはさまざまな民族が住んでいるが、どの民族にも代々親から子へと語り継がれてきた物語や歌がある。そうした口伝えの伝承を口承文芸と呼ぶ。口承文芸には叙事(じょじ))のジャンルと抒情(じょじょう)のジャンルがあり、叙事の中心的なジャンルは昔話と英雄叙事詩、それに伝説である。しかし、どの民族にもすべてのジャンルが揃っているわけではない。地域や民族によって、存在しないジャンルもある。日本国内を例にとれば、日本民族には英雄叙事詩はないが、アイヌ民族には世界の三大叙事詩の一つとして名高いューカラ(ラテン字表記はyukar)がある。シベリアの場合、特に英雄叙事詩が発達しているのは、南シベリアのチュルク・モンゴル系民族と極東のツングース系民族である。 シベリア先住民族の多くは近年まで主に狩猟、漁