かつて読書は音読が主流でした。では、音読できない小説なんかはどうしちゃったんでしょうか? 今日は、黙読とは世界の禁忌に触れ、人を目覚めさせる行為なのではないか、ということについて考えます。 名前は忘れたが、フランスの中世の神学者が日記の中で、こういうことを書いていたそうだ。蔵書家で知られる彼の書斎に、甥っ子が無断ではいりこみ、本を読んでいたらしい。そのことを彼はこう日記に書いたという。 「なんと彼は、声をださずに本を読んでいた」 まるで奇っ怪な悪魔でも見たかのように、その神学者は衝撃を受けたのだった。たまたま書斎にはいって、甥の行為を目撃したときのこの彼の驚きぶりを、私たちは、なにか不思議な感じで受け取ってしまうが、それは私たちが黙読を当たり前のこととして考えているからだ。 その甥っ子は勝手に書斎にはいりこんで、おじの蔵書を読むことに、うしろめたさを感じていたのだろうか。だからこそ彼は声を