T.E. カーハート (著), Thad E. Carhart (原著), 村松 潔 (翻訳) 「面白い本」という言い方には、いろいろなニュアンスが含まれている。それは「おいしい料理」にもさまざまな言い含みがあるのと同じだ。まず、夢中になって楽しめる小説や、ドキドキさせてくれる小説といった、テイストの違いがある。また、滲みてくるような味わい、鮮烈なクリスタルガラスのような印象といった、伝わり方の違いもある。そして、その場かぎりの楽しみではなく、愛着を感じ、大事にしたくなって、あまり大きな声で面白いと言えなくなってしまうような、「面白い本」に出会うことがある。本棚に納めておくと、自分自身の一部になったかのように感じる本だ。 私がたくさんの本を読むのは、そういう本に出会いたいがために読んでいる、という面が多分にある。私という個人は、この肉体だけでなく、これまで食べた物、暮らして来た場所、家族や