コラム41:浅井君の勘違い 法学政治学研究科・法学部教授 木庭顕(元学習相談室運営委員長) 夏目漱石「虞美人草」(1907年)の著名な一節を引く(*)。 浅井君は遠慮のない顔をして小夜子を眺めている。これからこの女の結婚問題を壊すんだなと思いながら平気に眺めている。浅井君の結婚問題に関する意見は大道易者の如くに容易である。女の未来や生涯の幸福についてはあまり同情を表しておらん。ただ頼まれたから頼まれたなりに事を運べば好いものと心得ている。そうしてそれが尤も法学士的で、法学士的は尤も実際的で、実際的は最良の方法だと心得ている。浅井君は尤も想像力の少ない男で、しかも想像力の少ないのをかつて不足だと思った事のない男である。想像力は理知の活動とは全然別作用で、理知の活動はかえって想像力のために常に阻害せらるるものと信じている。想像力を待って、始めて、全たき人性にもとらざる好処置が、知恵分別の純作用