宮沢さんの無愛想の魅力 2007年8月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第16回] by 田勢康弘(政治コラムニスト) 小渕恵三さんが総理大臣だったころ、嬉しそうな表情で便箋3枚に書かれた文章を見せてくれたことがある。「大蔵大臣からこれを貰った」。宮沢用箋と記された便箋には、間違いなく筆ペンの宮沢喜一さんの字が躍っている。マスコミが小渕さんを「ボキャ貧(語彙不足)」とか「真空総理」とかからかっていたころのことである。 「いわゆる『真空』の効用について老子の説くところを高覧に供します」という書き出しである。「大成は欠けたるが如く其の用弊(やぶ)れず 大盈(えい)は冲(むな)しきが如く其の用窮まらず」「本当に完成しているものはどこか欠けているように見えるが、いくらつかってもくたびれがこない。本当に充実しているものは一見無内容に見えるがいくら使っても無限の効用を持つ」と解説がついており、最後