(1) 最初に、なにをもって「南京事件否定論」と呼んでいるのか、「歴史修正主義」と呼んでいるのかを再確認しておきましょう。南京事件否定論を巡る議論に馴染みのない方がこの数日おいでになっている可能性が高いので。 「否定論」「修正主義」と私が呼ぶ第一の基準は、犠牲者数推定の数ではありません(結果的には数がメルクマールになりますが)。犠牲者数推定を行なう手法、そしてなによりその目的が基準です。例えば秦郁彦の『南京事件』(中公新書)では、当時(1986年刊行)入手可能だった「日本軍の公的記録を個別に割引せず、そのまま積みあげてみた」結果として、「捕らわれて殺害された中国兵の推計」を3万人としています。笠原説との違いは「捕われて殺害された」ケースに限定するかどうかによるところが大きく、捕虜の殺害についてあれこれ正当化し割り引くことはしていません*1。また民間人の犠牲についての中国側の主張に対しても次