コリン・ウィルソンの『アウトサイダー』が文庫化されたときに解説を頼まれた。 思い出深い本だったので、一文を草した。 それを採録しておく。 『アウトサイダー』についての個人的な思い出とささやかな感想 私が『アウトサイダー』を手に取ったのは、1966年の秋のことである。そのときのことは半世紀近く経った今でもはっきり記憶している。この本の導きによって、私は知的成熟の一つの階段を上ることができたからである。その話をしよう。 その年、私は都立日比谷高校という進学校の雑誌部という超絶ナマイキ高校生たちのたまり場のようなクラブの1年生部員だった。上級生たちはヘーゲルとかマルクスとかフロイトとかサルトルとか、そういう固有名をまるで隣のクラスの友人たちについて語るかのように親しげに口にしていた。私はそこで言及されている人たちについて、かろうじて人名辞典レベルの知識があるのみで、手に取ったこともなかった。まし