強いられる死―自殺者三万人超の実相 [著]斎藤貴男[掲載]2009年6月21日[評者]重松清(作家)■死を選んだ? 冗談ではない 自殺をすることを、僕たちはつい詩的に「自ら死を選んだ」などと言ってしまう。本書の読了後は、それがいかに無神経で、残酷で、傲慢(ごうまん)な言い方なのか、苦みとともに思い知らされる。死を選んだ? 冗談ではない。選ばざるをえないところまで追い詰められたのだ。いや、そもそも「選ぶ」という自発的な行為で語ってしまうからこそ、一方的な自己責任論が跋扈(ばっこ)してしまうのではないか。 自殺とは、強いられた死――本書はそれを、言葉のアヤではなく、強い説得力で示す。上司の執拗(しつよう)なパワハラに追い詰められたサラリーマン、民営化に伴う成果主義の導入で疲れ果てた郵便局員、多重債務に押しつぶされた母親、激しいいじめによって生の希望を打ち砕かれた中学生……一つひとつの自殺の悲劇