文字界隈が活況を呈している。振り返ってみると、2010年に出版された『文字をつくる 9人の書体デザイナー』は、刊行当初こそ大きな話題にならなかったが、じわじわと評判が広がり、仙台や深圳など、思わぬところで若いデザイナーから声をかけられる場面が増えるようになったのはこの本によるところが大きい。著者の雪朱里さんは現在も、『デザインのひきだし』で連載している「もじ部」を通じて、書体デザイナーの現場の声を伝え続けている。真摯な取材姿勢と丁寧な筆致にはファンが多い。 雪さんの活動に先だって、フォントディレクターの紺野慎一さんとエディター宮後優子さんの旺盛な行動力と幅広い影響力も見過ごせない。タイプフェイスに注目する層の裾野を広げ、新たなネットワークの構築を推進してきたキーパーソンである。紺野さんは『ファウスト』を契機にして星海社の設立に尽力し、宮後さんは満を持して『Typography』誌を立ち上げ