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ブックマーク / www.mishimaga.com (8)

  • 第34回 羽生の一分、鳴り響く歌|いささか私的すぎる取材後記|みんなのミシマガジン

    あの時、羽生は何を見ていたのだろう。何を思っていたのだろう。 一分将棋の死線の上で。 秒読みの焦燥、確信した勝利、敗北の恐怖、恍惚、不安。 何も分からない。分からない。誰にも分からない。 午後10時29分、134手目。劣勢の豊島は△8二銀を着手する。終盤のセオリーをかなぐり捨てる執念の受けだ。揺らめき、くぐもっていた控室の熱は突然、大きな声になって発露された。 一分後、羽生の右手の指先は8二の地点へと伸び、豊島の銀を奪い上げる。9三にいた竜を切る驚愕の手順で踏み込んでいったのだ。 「うわああああ」 一目見て危険すぎる一手の出現に、検討陣は再び歓声とも悲鳴ともつかない声を上げた。 継ぎ盤を囲む棋士、報道陣、関係者の多くは口元を緩ませている。もちろん嘲笑ではない。苦笑でもない。ゾクゾクする高揚を得た時に人が見せる笑みだった。 まだ羽生の駒台には飛、銀2枚、香、歩5枚が乗っている

    第34回 羽生の一分、鳴り響く歌|いささか私的すぎる取材後記|みんなのミシマガジン
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    wozozo 2014/11/05
  • 第58回 千日手の長い夜|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    夜に響く駒音だった。時計の針は10時に近付いている。 銀将を手に取った羽生善治の右手の指先がゆらりと宙を舞い「6六」(※1)に打ち下ろされた瞬間、控室(※2)の空気はエアポケットに入ったように行き場を失った。 「え?」「あれ?」「何これ?」 モニターを通して局面の検討を行っていた棋士たちがどよめく。私には何が起きたのか理解出来なかった。とんでもない悪手を指してしまったのだろうか、と思った瞬間に、今度は「あっ」「なるほど」と「6六銀」後の展開を読み切ったのであろう声が上がった。私の目の前にいた行方尚史八段(※3)は小さな声で「マジックだ・・・」とつぶやいた。 午前9時の開始から既に13時間が経過しようとしている。疲労困憊の控室とは裏腹に、対局室の空気は凜として張り詰めたままだ。彼にしか起こし得ない魔術を繰り出して危機を脱した羽生は、苦悩する鬼のような顔で思考を続けている。土壇場に仕掛け

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    wozozo 2012/10/16
  • 第31回 一目惚れしてしまった<彼女>との、二十歳の夏。新潟にて。|<彼女>の撮り方|平日開店ミシマガジン

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    wozozo 2012/08/07
  • 平川克美さん×中島岳志さん(後編)|特集|平日開店ミシマガジン

    前編では、『小商いのすすめ』で触れられている日の「人口減少」の問題が文明社会の歴史的な流れの結果であることや、その問題を政治が扱う際の危険性などの視点で対談が展開されました。 後編は、前編でもちらほら言及された、いま、その動向に注目が集まっている、あのひとについての話題からスタートします。 (文:足立綾子) 「橋下待望論」の正体とは? 『小商いのすすめ』(平川克美、ミシマ社) 平川僕は民主主義の擁護者でありたいと思っているんだけれども、最近の民主主義ってどうもだめなんじゃないかなと思い始めています。民主主義に対する反対概念というのが、独裁とかそういうものだと思われるかもしれないけれども、僕は、パタナリズムだと思っているんですね。パタナリズムというのは、上の者が下の者を責任もって面倒を見るという社会です。この前まで日は、独特な家父長的な家族制度を持っていましたから、ずっとパタナリズムでや

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    wozozo 2012/03/03
  • 第42回 不機嫌の謎、解明|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    2月17日午後6時過ぎ。第146回芥川・直木賞贈呈式の壇上に上がった田中慎弥は、すーっと大きく息を吸い込むとマイクに向かって言った。 「どうもありがとうございました」 そして、頭を下げて踵を返すとスタスタとステージを去っていく。たったひと言のスピーチに会場がどよめくなか、席に戻るとウーロン茶をぐいっとあおった。司会者が「万感の思いが込められていました」とアドリブを放つと、約300人の人々で満員御礼となった会場は爆笑に包まれた。田中も微かに笑っていた。寵児を見つめる出版関係者たちの熱の中で、僕は6時間前のことを思い出していた。 話題の新芥川賞作家への道程は険しかった。取材対応は、芥川賞を受賞した直後に東京で文芸誌と一部の一般紙に応じたのみ。集英社に何度依頼しても受け入れられず「下関まで行く」と伝えても「下関での取材は御人が受けない方針なんです」と言われる始末。しかし簡単には引き下がれない。

    wozozo
    wozozo 2012/02/20
  • 第41回 彼女がかけた魔法の呪文|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    「〽たーのしーい♪なーかまーが♪ポポポポ~ン♪」 CMの中で天真爛漫に歌っていた彼女は、当時の葛藤を打ち明ける。 「まさかあんなに流れることになるとは思いもしなかったです。最初はノンキなもので、飲み屋のテレビで見て、おっちゃんに『これあたしー、あたしー』なんて自慢してたんですけど、次の日から友達とか知り合いからメールがわーっと来て。ネット上でも話題になって『これはただごとじゃない』と。苦情もあったみたいで、いい思いをする人ばっかりじゃないんだなと気付いたんです」 イメージ通り、フワッと優しい空気をまとった松野々歩さんは27歳の歌手。東日大震災の発生後、企業の宣伝活動自粛によって日中で流れたACジャパンのCM「あいさつの魔法。」で歌唱を担当したのが彼女だった。CMは超ヘビーローテーションでオンエアされ、空前の大ブームを巻き起こした。「いまだに友達に『えっ、あんただったの!』ってビ

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    wozozo 2012/02/10
    ポポポポ~ン
  • <彼女>の撮り方|平日開店ミシマガジン

    第1回 プロローグ 突然ですが、大学受験前日の話をします。 かれこれ、15年も前のことになります(人生のおよそ半分!)。 僕は、心理学を勉強しようと、筑波大学を一受験することにしました。 筑波という土地に魅せられて、心理学という学問に救いを求めて。 当時の僕は、何も情熱を打ち込めるものがない、空っぽな存在でした。 筑波に行けば、心理学を学べば、自分はどうにかなるはず。 結局のところ、現役で行くか、浪人して行くか。 僕は絶対、筑波に行くんだから、そりゃあ一受験だろう。 一見、潔いようで、相当、追いつめられていたような気がします。 それが、思春期ってものなのかもしれません。 単純で、極端で、若かったんです。 そういえば。受験前日の話でしたね。 と言うか、受験に<彼女>なんて、出てくるのかって? もちろん当時は、僕に<彼女>と呼べる人はいませんでした。 完膚なきまでに、

  • 第40回 不機嫌の謎|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    不穏な空気は始めから感じ取っておりました。今月17日午後8時半から行われた第146回芥川・直木賞受賞会見の席上でのことです。東京・丸の内は東京會舘の11階シルバールームに入ってきたのは、ふたりの新芥川賞作家とひとりの新直木賞作家でした。 早版(印刷所から遠い場所にある地区に配られる新聞)の締切が近づいている各新聞社のために、まず先に全員の写真撮影をするのが慣例になっているんです。いつもながらの光景です。カメラマン席の片隅に陣取った僕もカメラを構え、ファインダーを覗き込むのですが、いつもと何かが違う。何かがおかしい。よくよく観察すると、受賞者3人ともジャケットにジーンズというスタイルは共通しているのですが、真ん中に立っている男のみ様子が明らかにおかしいのです。 「え? 今しがた銀座で通り魔してきましたけど、何か」的な表情とでも申しましょうか。目はキョロキョロと落ち着きなく天井を見渡し、肩はダ

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    wozozo 2012/01/31
    "会見の後で知ったのは、彼の座右の銘が「足が絡まっても踊り続けろ」であること。"
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