「ポケモンGO」や通販サイトなどでおなじみになりつつある拡張現実(AR)と同じくらい、アーティスティック・リサーチ(AR)という言葉が浸透してほしい。これは芸術家が表現するために調査や試作をする過程である。例えば一枚の絵を描く時も、描く対象について調べ、何枚ものスケッチを作成する。多くの鑑賞者が眼(め)にするのは完成された作品だが、そこに至るにはどのような思考や実践があるのか。それはたいがい孤独な作業に違いなく、ゆえに楽しいのだとも言える。いっぽうで制作過程に触れる機会は限られ、学芸員にとっても貴重な経験である。 新しい作品の制作に併走するとARの醍醐味(だいごみ)を知る。現在、アーツ前橋で新作を展示中の山川冬樹(1973年生まれ)は太陽系から飛び出したボイジャー計画を祈りだと言う。その地上から地球外生命体に届けられる祈りと、地上から別れを告げる言葉を彼は重ね合わせる。その言葉を聴くために