「大浦信行の《遠近を抱えて》はいかにして90年代的言説を準備したか」『あいだ』第112号(2005年4月)、2-14頁. 加治屋健司(かじや けんじ/ニューヨーク大学美術研究所博士候補。6月よりスミソニアン博物館フェロー) はじめに 《遠近を抱えて》が公開されて20年が経つ。 『あいだ』の読者には改めて説明するまでもないが、若い読者のために確認しておこう。《遠近を抱えて》は、大浦信行が1982年から85年にかけて制作した連作の版画作品で、昭和天皇や古今東西の美術作品、周囲の事物や風景の写真を組み合わせたリトグラフ(一部シルクスクリーン)である。この作品が注目を浴びるようになったのは、86年に富山県立近代美術館の『富山の美術 '86』展で展示された後に起こった一連の事件によるところが大きい*1。天皇の写真の使い方をめぐって県議会議員や右翼から批判を受けた美術館が、作品を非公開処分にし、さらに