スク水漁の村 ぼくはスク水漁の村に生まれた。村の男たちのほとんどはスク水漁師で、女たちはその加工をして暮らしていた。毎年、ノウゼンカズラの花が咲き始める季節になると、男たちは早朝から喜び勇んで船を出し、たくさんのスク水をとって帰ってきた。夕方、女たちは自分の亭主や父親の船を見つけると、急いで駆けつけてスク水を加工小屋に持ちはこんだ。スク水は天然の生ものがいいという人もいるけれども、村人たちはあまり生を好まなかった。新鮮なスク水を伝統的なやり方で仕上げてこそだという誇りがあった。ぼくが生まれ、育ったのはそんな村だった。 スク水漁の歴史 この村で何時頃からスク水漁が行われているか、正しく知っているものは一人もいなかった。ただ、親のその親の、そのまた親の……ずっと昔からこの村はスク水とともにあったのだと、だれもが信じていた。豊かな海と、太陽の光をあびてキラキラとかがやくスク水が、すなわちこの村そ