中島梓先生の訃報に接して 中島梓先生が亡くなられた。 人間はその最悪の行為で測られる。極端な話、大量殺人犯を「そこ以外は素晴らしい人だから」とかばっても、善人ということにはできない。しかし作家は、その最良の作品で測られる。たったひとつ素晴らしい作品があれば、その作者は素晴らしい作家だ。ほかに駄作や佳作がいくらあっても、ものの数にも入らない。たとえば、『デカメロン』以外のボッカチオや、『ドン・キホーテ』以外のセルバンテスを知っているのは研究者だけだ。 不幸なことに、近年の作家(つまり死んでからまだ間もない作家)の場合、代表作と最高傑作はめったに一致しない。松本清張の代表作は『点と線』だが、これは清張のなかでも最低の駄作だ。中島梓先生の場合(『グイン・サーガ』)は清張よりはるかにましだが、私に言わせればこれは最高傑作ではない。元愛読者として、また小説道場の門弟として、中島梓先生の遺徳を称えるた