言語の起源はどんなものであったのだろうか、は我々の想像力を刺激するテーマだが、決着をつけるような証拠が得られるような見込みのない、いたって思弁的な問題にとどまるだろう。しかし、プラトンの対話編にしばしば登場するミュトスにも、まったく意味がないとは言えないように、かかる思弁にもそれなりの意味はある。それを語りだすミュトスがどのようなものであれ、それらは言語をいかなるものと現に見なしているか、人間をいかなる存在と見ようとしているかなどを、大雑把に総覧するに役立つからである。 言語が極めて有用なものだからといって、それが有用性のために発明されたと考えるようなことはできない。それは人間が種として生存するための効用(survival value)によって、進化論的に説明することも期待薄である。そもそも我々は、進化論が達成した成果に幻惑されるあまり、生存のために効用を一元的な説明原理であるかのように考