母は兄のことを「貧乏舌だからどこででも生きていけるね」と言う。昔から兄は何を食べてもなんの感想も言わない。「量が多い/少なすぎる」「グリンピースつがないで」ぐらい。たとえ母が兄だけのために手によりをかけて凝ったものを作ってもそれだけ。ひとこと美味しいといえばいいのに。そうすれば母も気持ちよく美味しいご飯を作ってくれる、とずっと不可解だったが、そもそも彼は食に興味がないのだった。婚約一歩手前で同棲までした料理が得意な彼女に振られているのを見て、ああね、と思った。 この間帰省して知ったのだが、兄の自炊は米に生のままのベーコンを乗せただけのものと袋に入ったままのパック野菜に塩を振ったもの、というクオリティー。それをやはり眉ひとつ動かさずにつまらなそうに口に運ぶ。そういえば昔から、外食もつまらなそうに食べる人だった。今も行くとしても、誘われたチェーンの居酒屋かチェーンのファストフードぐらい。 どこ