サム・ライミ久々のホラー映画。すぐれたホラー映画を見ているときになぜだか笑いが洩れてしまうという経験は多くの人が持っているとおもう。ホラーをホラーたらしめている「こわい」という感覚についてストイックに突き詰めていく黒沢清のような作家もいるが、恐怖と笑いとがほとんど近似値であるという実感は漠然と共有されてはいる。こうした恐怖と笑いのふしぎな漸近線の極北にライミの鮮烈なデビュー作『死霊のはらわた』があったのではないだろうか。『スペル』は、いくつかの商業映画を手がけることによって体得した知性や運動神経を、自らのオリジンに落とし込んだいわば原点回帰作品である。冒頭にデビュー当時のユニバーサルピクチュアのロゴマーク*1を使用しているのも、彼なりのステートメントであろう。実際、この映画に目新しい要素は皆無といっていい。威勢のいい人体破壊こそ抑えられているものの、どろどろとした液体表現、不吉の前兆として