1978年、一人のソ連の科学者が、致死量の300倍もの放射線量のビームをまともに浴びながら、奇跡的に生き残り、科学研究の対象となった。彼は今、75歳で健在だ。彼に何が起きたのか?そして、ソ連当局はいかにこの事件を極秘扱いにしたか…。 千個の太陽 「千個の太陽よりも明るい」閃光。これが、1978年7月13日に、物理学者アナトリー・ブゴルスキー(1942~)が見たものであった。彼の頭部が、ソ連のシンクロトロン(円形加速器の一種)「76GeV」の陽子ビームに貫通されたときのことだ。後に彼が回想したところでは、痛みは感じなかったが、長期的な影響があるだろうことは分かっていたという。 34歳だったソ連の物理学者は、モスクワ州・プロトヴィノにある「高エネルギー物理研究機構」(IHEP)で勤務。彼は、当時ビームエネルギーで世界記録を持っていた陽子シンクロトロン「U-70」を運転していた。 シンクロトロン