映画評 『この世界の片隅に』。秩序ある世界が一変する様子を描く秀逸な作品 ケネス・トゥーラン 『この世界の片隅に』は、その言葉の響きどおり心地よい作品だ。その心地よさが終わるまでは。 アヌシー国際アニメーション映画祭の受賞作であるこの日本の長編映画は、地味な傑作であり、片渕須直による脚本・監督の、驚くほど胸を打つ日常の叙事詩である。片渕は宮崎駿の弟子で、この巨匠の『魔女の宅急便』で演出補を務めた。 片渕は、労を惜しまずに日常生活の美しさと静かな詩情を恭しく賞賛し、そのすべては気付かぬうちに第二次世界大戦中の平均的日本人の忍耐と犠牲に捧げる作品へと変わってゆく。 実際、労を惜しまなかったことは、作品の半分どころの話にとどまらない。というのも、片渕はこの物語の細部の調査に6年を費やし、細部を正しく作画する裏付けのために、1945年の原爆で中心部が破壊された広島と、その隣の呉の写真を4000枚以