本人への取材一切せず傑作記事を仕立てる。現実を演出する文豪ゲイ・タリーズの「ニュージャーナリズムの巧み」 サマータイムがはじまり夕方5時でもじゅうぶんに明るい3月の日曜、6時の取材に向かう筆者の携帯電話に見知らぬ番号から1本の電話が入っていた。かけ直すと、受話器の声がこちらの言葉を遮る。「やあ、メールにも伝言残しておいたんだが、取材時間をちょっと遅らせてもらえないか。30分ほど。いや45分…1時間後がいいな。かまわないか? よかった、じゃあ7時に会おう」 電話の主は、ゲイ・タリーズだ。86歳の現役ジャーナリストで作家。本人への取材を一切せずにフランク・シナトラの人物像を如実に浮き彫りにした傑作記事や、7年かけてマフィア一族・ボナンノファミリーと一緒に過ごし、イタリア系移民の興隆と斜陽と一族の内実を暴いた『汝の父を敬え』、覗き魔のモーテルオーナーと一緒に客室覗きするまでに至った『覗くモーテル