→紀伊國屋ウェブストアで購入 道徳は長らく理性の働きと考えられてきたが、18世紀英国で同情心や共感といった感情の働きに根ざすという道徳感覚説が登場した。ハッチソン、ヒューム、アダム・スミスらで、特にヒュームは道徳を情念の働きと見なした。 高級な理性の働きであるべき道徳を低級な感覚に、それもよりによって低級な中でも低級な情念に結びつけた道徳感覚説に対する反発は激しかった。カントの『実践理性批判』がたまたま道徳にかなっているように見える行為でも、道徳法則にもとづかない感情によって引き起こされた行為にすぎないなら道徳的ではないとする厳格な道徳観を打ちだしたのは道徳感覚説に対する反論という側面があったといっていいだろう。 だが現代の脳科学は道徳感覚説を復活させつつあるらしい。著者は本書の狙いをこう語っている。 倫理観というのは、人間の脳の中にある根本的な道徳感情に由来する。人類が誕生し集団生活を行