罪を憎んで人を憎まず。そうやって、ずっと生きてきた。先日、部下氏に請われて商談に同席した。事前に来客の社名と役職は確認していた。だが、応接ルームで面談相手の営業課長を見た瞬間、15年前にタイムスリップした。 当時、僕は今と同様に食品業界で営業マンとして働いていた。とある見込み客にサンプル食材を持って訪問したときだ。対応してくれた担当課長は「これをその値段で売るなんておかしいんじゃないか。ウチの柴犬も食べないよ。外国製でもっといいものが半値で買える。頭を使いなさいよ。何年業界にいるんだ?」と当時飼い始めた飼い犬の名を出して、僕を嘲笑した。男の名前は覚えていない。名刺交換どころか、「これはいらないわ」と名刺を突き返されてしまったのだ。 その男が15年後、愛想笑いを浮かべて僕に名刺を突き出している。歳は取って体型は変わっているが面影はある。間違いない。奴だ。自己紹介をしながら名刺交換。顔をあげた