屋根の下はさえぎるもののないシームレスな空間。ふたつの大きな開口にガラスなどはなく,瀬戸内海の風や音,ときには雨も降りこむ。屋内でありながら屋外的な環境がつくり出された館内で,来館者は五感をはたらかせて環境への想像をふくらませる 写真:矢野勝偉 直島と小豆島のちょうど中間に位置する人口約1,000人の豊島(てしま:香川県小豆郡)。この北東部,唐櫃(からと)地区に2010年,建築家の西沢立衛氏とアーティストの内藤礼氏のコラボレーションによる豊島美術館が誕生した。棚田の広がる緩やかな傾斜地で,訪れる人びとの目を最初に引くのが,なだらかに成形された純白の大屋根だ。シェル構造と呼ばれる薄いコンクリートの曲面が,地表を覆うように滑らかな起伏を形成している。「水滴」をイメージした独特の外観は,「建築とアートと環境が一体化するものを」という福武財団理事長・福武總一郎氏の発意から,西沢氏が構想したものであ