【特別寄稿】 川口有美子著『逝かない身体――ALS的日常を生きる』を読む 沈黙の身体が語る存在の重み 介護で見いだした逆転の生命観 柳田邦男(ノンフィクション作家・評論家) 《凄い記録だ》――私はこの本を読み進めるうちに率直にそう感じ,「生と死」をめぐる著者・川口有美子さんの思索の展開と,次々に登場する既成概念を打ち砕く数々の言葉に,ぐいぐいと引きこまれていった。 難病ALSの母を介護した12年間の記録だ。症状の進行がはやく,大半は言語表現力を失った沈黙の状態に陥っていた。 ALSは随意筋を司る神経細胞が死滅していく病気だ。手足が動かなくなるだけでなく,呼吸する肺の筋肉も動かなくなるので,人工呼吸器をつけないと生きられない。唇も動かなくなるから,発語ができなくなる。最近は技術の発達により,頬などに残されたわずかに動かせる場所にセンサーを取りつけて,YESかNOかの意思表示ができるようになっ
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