はじめに 空海はその生涯(774-835)において、数多くの著作を残した。 それらの著作によって、私たちは空海の思想を体系的に知ることができる。そうして、そこに書かれていることが神秘的なことなどではなく、大変論理的なものであると気づかされる。 では、その著作とはどのようなものなのだろうか、それらは大きく三つのジャンルから構成されている。 一つは、広義の人間学の展開である。人間の活動を身体・言語・意思とし、それらの究極の原理を説くことから、インド、中国のあらゆる宗教・哲学・思想を総合的に評価する比較思想論や、わが国初となる私立大学の教育論などを展開するもの。 一つは、請来した仏教経典の概要を紹介し、その解釈をしたもの。 一つは、当時の時代、社会、文化、生活、自然などを映した詩文集である。 当「三教指帰(さんごうしいき)」(人間の生き方を指し示す三つの教え)はそれらの著作に先立つものであり、若