アントニオ猪木が“一寸先はハプニング”なら、武藤敬司は“一寸先はサプライズ”。「LAST LOVE」で何も起こらないというのは、むしろ不自然であった。 終焉が近づくと3万人をのみ込んだ東京ドームは、どこかセンチメンタルな空気が流れ始めていた。 引退試合の相手に指名した内藤哲也のデスティーノを浴びて3カウントを聞いた後、武藤は仰向けで寝そべったまま天井を見つめていた。 「東京ドームって、ひれえな」 心のなかでそうつぶやいたそうだ。1995年の高田延彦戦然り、何度もメーンを張ってきたのに、自分が泳いできた世界の広さと深さをここで感じ取るあたりが何ともあの人らしい。 やるべきことはまだ残っていた。 武藤敬司、最後の叫び「チョーノ! 俺と戦え!!」 武藤はムクッと起き上がって勝者を丁重に送り出すと、目をカッと見開いた。終わったはずなのに、生気がみなぎっている。マイクを持つ。ん? おかしい。絶対に何