このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。 X: @shiropen2 山口県立大学に所属する研究者らが2023年に発表した論文「推しすぎ問題」は、ファンが推し(ファンの対象となる人物)に対して適切な距離間を取れず過度な期待をしてしまう現象を事例から考察し、健全な推し活を提案した研究報告である。 人々がファン活動から満足感を得る理由は複雑だ。推しという存在を媒介することで得られる「自己愛」、推しを自身のアイデンティティーとして置き換えることで満たされる「承認欲求」、推しの成功や活躍を見守る、ある種育成ゲームのような楽しみや結果の分からないものへの「賭博性」とい