個人の心の内面に国家が踏み込む。国家が特定の人間像を強制する。そんな危惧を禁じ得ない。 文部科学省の有識者会議が小中学校の道徳について、教科化と検定教科書の使用を提言すると決めた。国が一律に徳目を指定するのは戦前の「修身」を想起させる。国のために死ぬことを求めた皇民化教育の再来ではないか。 皇民化教育は、沖縄戦であまりに多くの犠牲を生じさせた。その痛切な体験で、国による特定の道徳の押しつけがどんな結果を招くか、われわれは骨身に染みて知っている。道徳教科化は避けるべきだ。 提言は、教育再生実行会議がいじめ問題への対応として2月に出した提言を繰り返した形だ。 だが本当にいじめ対策なのか。道徳教科化は2007年の第1次安倍政権の教育再生会議が提唱した。当時は「わが国と郷土を愛するとともに国際社会の平和に寄与する態度を養う」とうたう教育基本法改正とともに論議された。つまり愛国心教育と一体だったのだ