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ブックマーク / honz.jp (154)

  • 東北が日本を支える。『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』 - HONZ

    今ここに、数冊の文庫がある。角川グループパブリッシング発行、どれも2011年3月以降に印刷されたものだ。私の目には、他の文庫とそれほど違いはないように見える。軽く、柔らかい文庫。しかし、印刷された物語とはまた別の、ある物語を秘めた。今ここにあるこのは、もしかしたら未曾有の大震災を奇跡のように生き残った紙で作られたものかもしれないのだ。 2011年3月11日、14時46分。東北地方を襲った地震と津波。いわゆる東日大震災は、宮城県石巻市に大きな被害をもたらした。石巻市の当時の人口は16万2822人、総務省統計局によれば津波による浸水範囲内人口は11万2276人、石巻市の発表した震災による死者は3270人、行方不明者は436人。数字で見るだけでも、恐ろしいことが起こったとわかる。そしてこの震災は、石巻市にあった日製紙の基幹工場である石巻工場にも、壊滅的な被害をもたらしていた。 敷地

    東北が日本を支える。『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』 - HONZ
  • 『紙つなげ!』2014年上半期最高の社会派感動ノンフィクション - HONZ

    「この工場が死んだら、日の出版は終わる・・・」 こんな帯が巻かれたを書店で見て、手に取らずに店頭を通り過ぎることができる好きは少ないであろう。その工場とは一体どこにあるのか。なぜ日の出版は終わってしまうのか。そしていまだに日の出版は終わっていない理由とは。表紙には巨大なマシンと誇らしげな人々と千羽鶴。 ひさしぶりに読みはじめる前から身が引き締まる思いがする。これは2011年3月11日壊滅的な打撃を受けた日製紙石巻工場再生の物語である。 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹(文藝春秋) 『永遠の0』百田尚樹(講談社文庫) 『天地明察』沖方丁(角川文庫) 『ロスジェネの逆襲』池井戸潤(ダイヤモンド社) 『ONE PIECE』尾田栄一郎(集英社) これらのに使われている印刷用紙はすべて日製紙石巻工場で作られていた。担当していたのは8号抄紙機といわれるマシンだ。全長

    『紙つなげ!』2014年上半期最高の社会派感動ノンフィクション - HONZ
  • 『背信の科学者たち』-編集者の自腹ワンコイン広告  - HONZ

    一度は絶版になったが、再び世に出るチャンスは非常に低いというのは「出版界の常識」です。二度も絶版になったが復刊される確率は限りなくゼロに近いでしょう。『背信の科学者たち』は、こうしたジンクスを打ち破り、6月20日に緊急復刊されることとなりました。この「奇跡」が実現したのは、ほかならぬHONZの皆様の御支援によるものでした。 プレミアム・レビュー「『背信の科学者たち』の緊急再版を訴える!」の熱いレビューで叱咤激励していただいた仲野徹先生をはじめとして、様々な形で、復刊を働きかけていただいたHONZの皆様、そしてHONZのレビューを読んで応援してくださった方々に、この場を借りて心より御礼申し上げます。皆様のご助力がなければ、『背信の科学者たち』が再び世に出ることはありませんでした。 『背信の科学者たち』の原書が刊行されたのは、いまから31年前の1982年で、その6年後に化学同人社より翻訳の

    『背信の科学者たち』-編集者の自腹ワンコイン広告  - HONZ
  • 「森の図書室」オープニングパーティに参加してきた! - HONZ

    渋谷駅から道玄坂を上り、道玄坂交番前の交差点に出る。この時期、雨に濡れたくなければ渋谷マークシティの中を通りぬけてくればいい。信号を超えて交番の前を取り過ぎ、およそ50メートルほど行ったところに、その図書室はオープンした。 クラウドファンディンク日一を打ち立てた「森の図書室」。はやくから注目しパトロンのひとりとなっている私は、6月12日(金)の内覧会と13日のオープニングパーティに参加してきた。白いバックに森だけの看板。あれ、微妙に字が違う、とおもったら森の木が全部「」という字になっている。スタッフのTシャツもそのロゴが入っている。うん、かっこいい。 主催者の森俊介さんは30代になったばかりだろうか、若くて大きくて頼もしそうだ。ここまで漕ぎ着けた喜び半分、これからの不安半分を隠そうともしないところが好ましい。メディアからの注目度も高く、内覧会には多くのマスコミが集まっていた。すでにホリ

    「森の図書室」オープニングパーティに参加してきた! - HONZ
  • 神に近い存在『鳶』 - HONZ

    上空数百メートルを自由自在に飛び回る、リアル「鳶」職人ライフ。姿を見かけたことはあってもよく知らない――内実が書かれているのだけれど、とにかく、鳶の人たちは、熱い! 写真を見ているだけでドキドキしてくる。 とはいっても、そもそも鳶というのはどういう職業なのか。曖昧に捉えている人が多いのだろう。「鳶=ドカタ」ではない。そう、初っ端に書いてある。 鳶職人視点では、「ドカタ」とは、地面に近い部分や地下で、穴を掘ったり整地したり、土木工事に携わる人たちのことで、の中で主に紹介している高層建築の工事現場では、「土工」や「コンクリート工」のことを指すそうだ。 工事現場にはさまざまな関係者が出入りする。「基礎工事」→「躯体(くたい)工事」→「電気設備工事」→「内装仕上げ工事」→「外構工事」と進む工程の中で、だれよりも先に現場に入って柵や鉄骨を組む人たち、それが、鳶職人だ。仕事内容の凄まじさからなのか、

    神に近い存在『鳶』 - HONZ
  • 『「科学者の楽園」をつくった男 大河内正敏と理化学研究所』 殿様がつくった夢舞台 - HONZ

    いつまでもヨーロッパの模倣をするということは、甚だ面白からぬことであろうと思いますし、またいかにして日固有の……少なくとも東洋固有の材料もしくは事業を研究し、発明して起こさなかったならば、邦の産物を世界に広く売り広めて世界の富を邦に吸収することは覚束ないと思われるのであります。それゆえに何か新たに有益なる発明研究をしなければならぬと思います。 1913年、100人を超える政治家や財界人たちを前に「国民科学研究所設立について」と題された大演説を行ったのは、酵素研究やアドレナリンの発見などで知られる化学者、高峰譲吉。イギリス、アメリカに留学し、日と欧米との研究能力の差をよく知っていた高峰は、「国民科学研究所設立」の必要性を切実に感じていた。しかし、高峰がこの演説で要求した2,000万円という金額はあまりに大きく、“日主義の父”渋沢栄一の呼びかにもかかわらず、財界人からの反応は芳し

    『「科学者の楽園」をつくった男 大河内正敏と理化学研究所』 殿様がつくった夢舞台 - HONZ
  • 『キルギスの誘拐結婚』 - ある日突然、花嫁に - HONZ

    中央アジアのキルギスという国は、北はカザフスタン、東は新疆ウイグル自治区、南はタジキスタン、西はウズベキスタンに囲まれた場所に位置しており、国土の面積は日の約半分という小さな国である。 山や湖に囲まれたこの美しい国には、今なお続く信じ難い現実がある。それは仲間を連れた若い男が、嫌がる女性を自宅に連れていき、一族総出で説得し、無理やり結婚させるというもの。キルギス語で「アラ・カチュー(奪って去る)」と呼ばれる「誘拐結婚」である。 その是非以前に衝撃を受けるのは、「慣習」というものが持つ引力の強さであるだろう。各地における村社会の集合的意識は、底なし沼のような側面を持つ。キルギス人の人口の約7割を占めるクルグズ人、その女性の約3割は、誘拐により結婚していると推定されるのだ。 書は気鋭のフォトジャーナリスト・林典子が、5ヶ月間にわたりキルギスに滞在、約25組に及ぶ女性たちの取材記録を収めた写

    『キルギスの誘拐結婚』 - ある日突然、花嫁に - HONZ
  • 『ラインズ』 迷わず行けよ、その線を - HONZ

    書は読者に多くの視点を与えてくれるだ。 歩くこと、織ること、観察すること、歌うこと、物語ること、描くこと、書くこと。これらに共通しているのは何か? それは、こうしたすべてが何らかのラインに沿って進行するということである。 “ライン”には色々な意味がある。時間的なライン(物語・生命)があり、空間的なライン(線・境界)があり、両方が混ざり合ったライン(軌跡)がある。物質的なライン(糸・跡)もある。先祖を示すラインもある。 社会人類学者である著者は、書において「ラインについての比較人類学とでも呼ばれるもの」の土台を作ろうとした。それはとても広い。 私がこのアイディアを友人や同僚に漏らしたとき、最初はきまって狐につままれたような顔をされたものだった。 ごめん、よく聞き取れなかったのかな、ライオンの話? そもそもの発端は、「歌うこと」と「話すこと」の違いについて考察したことであった。かつて、言

    『ラインズ』 迷わず行けよ、その線を - HONZ
  • 『謝るなら、いつでもおいで』佐世保小6同級生殺害事件から10年… - HONZ

    学校の中の事件は、なぜかいつも心が痛くなる。小学生のころ、今のイジメのようなものではなかったが、つまはじきにされた記憶が蘇るからだろう。原因はわからず、誰にも相談できず、私は悩んだ末、親玉になっている子に直談判に出かけた。私が何かしたのか、という問いの答えがあまりにも的外れで、簡単に誤解が解けたことでこの事件は集結した。半世紀近い昔のことなのに、心臓が破裂しそうだったことはよく覚えている。 「神戸連続児童殺傷事件」(酒鬼薔薇事件)にしても「山形マット死事件」にしても、なにが引き金になったのか大人たちは皆目わからず、現実を目の前に突き付けられて右往左往するしかなかった。 「佐世保小6同級生殺害事件」もまた、同級生の少女が、友人の少女の首をカッターナイフで切り裂くという、前代未聞の事件に世間は驚愕し原因解明を求めた。 その事件は2004年6月1日に起こる。佐世保市立大久保小学校で6年生の少女が

    『謝るなら、いつでもおいで』佐世保小6同級生殺害事件から10年… - HONZ
  • 『本屋の雑誌』本に関わる世界の今昔 - HONZ

    どうも、書店員として、書店業界に関わるをレビューするのは気まずい。ゆえにHONZに所属してから何冊も出版されてきたその手のを読んで深く感じ入ったとしても、決してレビューは書かなかった。しかしながら今回は、読み物としてあまりに面白く、もしもこのをご存知ないとしたらもったいないという思いを抑えかねてしまった。 『の雑誌』という月刊誌がある。その名の通り、にまつわる記事を中心とした雑誌で、現在最新号は2014年6月号。(ちなみに、この号は仲野徹と東えりかの徹底ブックガイド対談が収録されているノンフィクション特集号。栗下直也も寄稿している。)毎号手の込んだ作りで、出版社の情熱を感じる雑誌だ。その『の雑誌』の別冊として発行されたのが、今回ご紹介するこの『屋の雑誌』である。 京都の三月書房、千駄木の往来堂書店の棚写真から始まる『屋の雑誌』の目次ページには、発行にあたっての思いがひっそり

    『本屋の雑誌』本に関わる世界の今昔 - HONZ
  • 『切断ヴィーナス』 - もっと高く、もっと遠くへ、そしてもっと美しく。 - HONZ

    OL、モデル、アスリートにイラストレーター… 書に登場する11人の女性には、一つの共通点がある。 それは、全員が義肢装具士・臼井二美男さんによって手がけられた義足を身につけているということである。一人ひとりの思いを実現するため、何度も対話を重ねながら生み出された「夢見る義足」。足の切断というアクシデントに見舞われた女性たちが、今、新たな一歩を踏み出した。 人間の根源的な欲求は、須らく「足」というパーツへ向かうのだろうか。もっと高いところへ、もっと遠くへ。その欲求はアフリカにいた人類の祖先を世界へと誘ったし、もっと美しく見られたいという欲求は、様々なファッションを生み出してもきた。 それらの思いを彼女たちの「表現」として描き出すのは、気鋭の写真家・越智貴雄さん。約1年前に開催された写真展でも大きな反響を呼んだ、まさに目を奪われる写真の数々。そのいくつかをご紹介したい。 * もっと高いところ

    『切断ヴィーナス』 - もっと高く、もっと遠くへ、そしてもっと美しく。 - HONZ
  • ”こんな面白いもんがあったんか” 『文楽へようこそ』 - HONZ

    文楽、である。人形浄瑠璃ともいう。300年もの歴史を誇る日の伝統芸能であり、世界文化遺産にも登録されている。しかし、はたしてどれくらいの人が鑑賞したことがあるのだろう。えらそうなことはいえない、私だって4~5年前から見始めたところである。 しかし最近はかなりはまっていて、義太夫教室に通い出したりしている。その関係で、この4月には、大阪にある落語の定席・天満天神繁昌亭であった『文楽応援の落語会』にかり出されたりした。さすがに義太夫を語るわけではなく、文楽ファンの怪しいおっさんとして、鼎談に登場しただけではあるが。 その時に、文楽を楽しむにはどうしたらいいか、という質問をうけた。とっさに「慣れでしょうね」と答えた。文楽というのは、鑑賞するのに、素養、というほどのものではないが、慣れが必要なのである。 ストーリーが複雑かといわれると、それほどでもない。まぁ、文楽と同じく大阪で生まれた吉新喜劇

    ”こんな面白いもんがあったんか” 『文楽へようこそ』 - HONZ
  • 『カウンセラーは何を見ているか』 - 常套句の罠、共感という欺瞞 - HONZ

    いわゆる業界ものというジャンルは古くから存在するわけだが、まさに玉石混交の世界である。業界内の人間から見ると、どこか通り一辺倒な言及に留まっていたり、業界外の人間から見るとチンプンカンプンだったり。また、あるあるネタとして笑い飛ばして終わりなものもあれば、業界との決別を覚悟して”立つ鳥後を濁しまくり”なものまでと幅広い。 ところが昨今、その業界に蔓延する問題を、内外の双方に上手く訴求し、業界自体のバージョンアップを試みるような「マイルドな告発もの」が増えてきているように思う。我が広告業界では上梓されたばかりの『おざわせんせい』がそのような任を担っていると思うし、先日HONZにてレビューされた『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です』などもその一種であるだろう。いずれにしても業界の圏域を越えられるかということが、肝になってくる。 「ケアをひらく」というシリーズ名の通り、書もそういう役割を果た

    『カウンセラーは何を見ているか』 - 常套句の罠、共感という欺瞞 - HONZ
  • 出版社「共和国」-編集者の自腹ワンコイン広告 - HONZ

    「共和国」というひとり出版社 見渡せばデジタルが華々しくわが世の春を謳歌しているこの4月2日付で、旧態依然の紙の出版社、「株式会社 共和国」を樹立しました。いわゆる「ひとり出版社」なのに共和国、独立国を宣言したのに日国に国税を徴収されてしまう矛盾だらけの出版社ですが、どうぞよろしくお願いいたします。 その共和国の口火を切る第一弾は、6月中旬に全国の書店にならべていただく予定です。2点同時刊行をめざしていますが、まず1点めは、いまもっとも注目を浴びている翻訳家でアメリカ文学者、都甲幸治さんによるブックガイド『狂気の読み屋』です。都甲さんは、翻訳小説としては異例のベストセラーになったジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』の訳者としても知られていますが、とりわけフィクションの書評家としても生彩陸離とした明晰な文章が人気で、毎月の文芸誌や情報誌に彼の名前を見ない月はめずらしいほどで

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  • 大人になること、それは合理化とうまくやっていくこと。『大人が作る秘密基地』 - HONZ

    大人になること、それは合理化とうまくやっていくこと。『大人が作る秘密基地』屋外、ツリーハウス、リノベーション、シェアオフィスまで 書は「秘密基地」をキーワードに18の事例を紹介する1冊。土地を購入してみずからコンクリートまで使って建てるものから、廃墟を再利用するもの、自宅のなかにつくるもの、果ては野外で行なうレイヴパーティまで、紹介される事例は多岐にわたります。 かつてマンガの神様こと手塚治虫は「合理化はゆとりや遊びの空間を消して」しまう、と語りました。成人することが合理化されることならば、秘密基地を諦めることと大人になることは同じことなのかもしれません。しかし、大人になることがもし「合理化とうまくやっていくこと」という意味ならばどうでしょうか。 書では、そんな「合理化とうまくやっていく」秘密基地の作り方がたくさん紹介されています。もっとも象徴的なのは、シェアオフィスやシェアハウスにつ

    大人になること、それは合理化とうまくやっていくこと。『大人が作る秘密基地』 - HONZ
  • 捏造を知るにはこれを読め! 『背信の科学者たち』の緊急再版を訴える⇒再販が決定しました! - HONZ

    『背信の科学者たち』、この刺激的なタイトルのが化学同人から出版されたのは四半世紀前。1988年のことである。かけだし研究者であったころにこのを読んだ。驚いた。捏造をはじめとする論文不正を中心に、科学者のダークな事件をあらいだし、その欺瞞から科学をとらえなおそうという試みである。最初におことわりしておくが、この、後に講談社ブルーバックスとして出版されているが、いまは絶版になっている。 科学というのは、基が正直ベース。性善説にのっとった営みである。こういったことと自分はまったく無縁だと思っていた。まさか、10年後に捏造事件に巻き込まれるとは夢にも思っていなかった。そして、今回のSTAP細胞騒動である。 STAP細胞について、直接は関係していない。しかし、主人公以外の登場人物は、論文調査委員会のメンバーも含めて、個人的に知っている人ばかりである。そして、専門領域が近いこともあってか、ある

    捏造を知るにはこれを読め! 『背信の科学者たち』の緊急再版を訴える⇒再販が決定しました! - HONZ
  • Ce n’est pas grave!!『世界出張料理人』 - HONZ

    人に料理を振舞うのはいい。どんなに忙しい仕事の最中でも、いったん気持ちをリセットしてくれる。次の手順、材の量、味の塩梅、盛り付け方、そんなことだけを頭に浮かべ、どうやったら美味しくなるか、べる人が楽しんでくれるか、それを考えるだけで心が弾む。 しかし、それも仕事となると別だろう。自分のお店や自宅でなく、呼ばれた先で賄わなくてはならない出張料理人ともなればその苦労が偲ばれる。書はフランスで出版されたレシピ「LA CUISINE DE FUMIKO」がブラジエ賞のグランプリ2010年、グルマン料理大賞の女性シェフ部門で世界最優秀賞を受賞したほどの腕の持ち主、狐野扶実子の書き下ろしエッセイ集である。 テレビや雑誌で見かけたことがあり、世界中のセレブの家に呼ばれて料理を作り、招かれたゲストがまた新たな顧客になる、という話は知っていた。レシピも手に取ったことがある。しかし、こんなにも様々

    Ce n’est pas grave!!『世界出張料理人』 - HONZ
  • 『西洋の書物工房』 本という名の作品 - HONZ

    文を書いている人なら、おそらく、自分の書いたものを、花切れのついたとして出版したいと思っている人は多いにちがいない。 花切れって、なに? 以前、HONZで(私が知らない)「花切れ」を語った時のメンバーの目の輝きといったら、そりゃもう、プリキュアもびっくりであった。そして今回書を読んで、遅ればせながら私も「書物」、モノとしてのの世界に俄然興味がわいてきたのだ。 花切れ(端布)とは、の背中側の最上部、棚に並んでいるを取り出す時に指をかけるところ、その奥の、隠れた場所につけられている布や編み物のことを言う。その起源は中世以前までさかのぼり、元々は、木でできた「表紙」と、羊皮紙に書かれた「文」を繋ぎ止める綴じ紐だった。もちろん手編みである。そこから、あの小さな数センチメートルの世界に、コプト様式、エチオピア様式、ギリシャ様式、イタリア・ルネサンス様式、フランス様式などの流儀が発生して

    『西洋の書物工房』 本という名の作品 - HONZ
  • よく生きるために学べ『フィンランド理科教科書 生物編』 - HONZ

    インフォームドコンセントの世の中になって、お医者さんはたいへんだ。相当時間をかけて説明しても、頭のなかに『?』しか残らない患者さんや患者さんの家族がかなりの割合でおられるにちがいない。 医業を営んでいないといっても、医学部を出ているので、近所のおばばとかに病気の相談をされることがある。どのあたりの基的なことから、どの程度の詳しさで話をしたらいいかが難しい。もちろん最初からきちんとすべてのことがわかるように説明するのがあらまほしけれど、それでは時間がかかりすぎる。 いまはまだいい。千ドルゲノムの時代がやってくると、USBメモリーをもってきて『せんせ、わたしのゲノムこれですねん、いちばんええ治療を見繕うてくんなはれ』とかいう患者さんが出てくるはずだ。いよいよ、どこからどういうように説明すればいいかわからないだろう。 そこまではいってないけど、アンジェリーナ・ジョリーのおっぱいからもわかるよう

    よく生きるために学べ『フィンランド理科教科書 生物編』 - HONZ
  • 『救命 東日本大震災、医師たちの奮闘』文庫版後書き by 海堂 尊 - HONZ

    ひとの善意を壊すもの 文庫化にあたり、単行の後書きを読み返してみた。後書きを執筆したのは2011年7月で、世の中が東日大震災の余波の真っ只中にあった頃だ。 あれから二年半。世の中は変わった。 被災地の頑張りの方向性は一貫しているが、社会のベクトルは大きくぶれ、被災地をネグレクトする方向に動いてしまった。そうした動きをここで詳細にあげつらうと却って論点がぼけてしまうので、一点に集中して述べる。 それは行政と政治の、被災地、ひいては日国民全体に対する背信行為である。 震災後と2014年初頭の、もっとも大きな違いは、民主党政権から自民党政権に政権交代したことだろう。自民党政権は、以前、凋落した原因をすっかり忘れ、完全に官僚制度の無批判全面支持というスタイルに舞い戻ってしまっている。 そして官僚が震災後に行なった、もっとも悪辣な行為が「復興予算の流用」である。復興予算という名の下で集めた税金

    『救命 東日本大震災、医師たちの奮闘』文庫版後書き by 海堂 尊 - HONZ