著: アサイ まだインターネットに触れていなかった高校3年生の秋。僕は学内誌に出す私小説の締め切りを気にしながら、進路指導室で大学資料と地図帳を眺めていた。 北海道で生まれ育った僕が進学先として考えた条件は「雪の降る古い町」「市内を大きな川が流れている」「目当ての学部がある」の3つ。これらを満たし、選んだのが山形県だった。 今思えばアナログな手法だったが、そうして進んだ大学は学業も日常生活もとても楽しく、特に古い寮で友人たちと過ごした時間は何物にも代え難いものとなった。そういった良い思い出を抱いて地元に戻り、働いて、妻と出会い結婚して、子どもが生まれた。 生活はうまくいっていたと思う。それでも僕は故郷を離れる決断をした。妻は「あなたとならどこへでも行くよ、出会ったころから言ってたじゃない」と言って背中を押してくれた。 そして僕は山形県に戻ってきたのだ、家族と一緒に。 ◆ 山形は藩政時代の経