いま全国でクマの襲撃が増えているが、史上最悪といわれる事件が起こったのは昭和45年。北海道で若き3人の岳人がヒグマの牙に斃れた。なぜ惨劇は起きたのか。その謎を解く鍵を握る人物が初めて口を開いた。50年前の夏、あの山で「生死の天秤」が揺れていた。 「今でも何かの拍子に思い出すと眠れなくなるんです」 「あのときのことは自分の中で、この50年間、封印してきました」 自宅のリビングで筆者と向き合った吉田博光氏(87・仮名・以下すべて)は、ぼそりと切り出した。半ば予想していた言葉だったが、はっきりとそう告げられるとやや動転した。それに構わず、吉田氏は続けた。 「今でも何かの拍子に(事件のことを)思い出すと、もういけない。夜も眠れなくなるんです」 その言葉が何よりも雄弁に50年前に起きた事件の本質を物語っていた。 異彩を放つ加害グマの異様な執着心と攻撃性 〈クマに襲われ三人不明 ――日高山系縦走の福岡