今月初旬、取材に訪れたベルリン郊外のベルリン自由大学。キャンパスを案内してくれた老気象学者が白いしゃれた建物を指さし、「ここに来るといつも複雑な気持ちになる。日本人なら分かるだろうが」と静かに語った。 第二次世界大戦直前の38年、ドイツの科学者、オットー・ハーンらが原子核が分裂する現象(核分裂)を発見した場所だった。この発見は人類に新しいエネルギー源をもたらし、ハーンは44年のノーベル化学賞を受賞した。 同時に、核兵器の開発にもつながった。伝記によると、米国が広島に原爆を投下したニュースを聞いたハーンは取り乱し、「私は数十万人の死に個人的な責任がある」とまで言ったという。彼自身はナチスに非協力的で、後年は核兵器反対運動に尽くした。 科学の記事を書いていると時々、「科学の発展は人間を幸福にしているか?」という疑問の手紙をもらう。科学の知見をどう利用するかは結局、社会や政治が決めることだが、科