今冬もっとも愛された映画のひとつが『哀れなるものたち』だろう。興行収入は8,000万ドル超え、英米それぞれのアカデミー賞ノミネート数は11におよぶ。好評の理由には、美学やキャラクターにくわえて、ヨルゴス・ランティモス監督作としてはハートウォーミングな余韻をもたらすバランスが挙げられる。ただし、小説の翻案としては大胆で、原作のスピリットをねじまげたか否かの議論まで発生させている。 【以下、映画および原作小説のネタバレ】 「彼女」が拒否した物語わたしはこの書物を笑い飛ばすことができません。わたしはこれを読むとぞっとします アラスター・グレイ『哀れなるものたち』ハヤカワepi文庫 原作版のポイントは、映画で描かれた物語りをベラ・バクスター本人が拒絶することにある。「死者の身体に脳を移植された少女」のゴシック冒険譚とは、ベラの夫アーチーボールド・マッキャンドルズが1909年に自費出版した書物なのだ
