日本各地には「霊山」と呼ばれる、信仰の対象になっている山が数多くあります。そのような信仰は、長い日本の歴史の中で、社会の変動ともかかわりながら変化してきました。そして今、山と人々の関係は決定的に変化しようとしています。 山と人々の信仰との関係を描いた「山と人の宗教誌」である、菊地大樹氏による現代新書の最新刊『日本人と山の宗教』から、その序章を紹介します。 立山連峰を目指して 北アルプスに位置する立山連峰。富山平野からも、すっくと屹立する雄姿を望むことができる。それがそのまま、山の名前となった。筆者が友人2人とともにここを訪れたのは、9月上旬にしては珍しいほどのさわやかな好天の日であった。立山には、富山市街から常願寺川沿いに鉄道とバスが整備され、いまでは室堂平(むろどうだいら)まで容易に至ることができる。しかし、かつてひとびとはこの道を、ひたすら歩いて頂上を目指した。 富山平野の縁辺部が、山