エラスムス 人文主義の王者 [著]沓掛良彦 エラスムスはルターとの対比で語られることが多い。行動派で勇猛果敢な後者に対して、前者は思索的で優柔不断な人と、どちらかといえばエラスムスに分が悪い。しかし、本書を読むと、こうしたイメージは一変する。 「もの書く男」としての生涯を貫いたエラスムスは、当時の絶対権力者、ローマ教皇を「世界のキリスト教会の疫病」と呼んだ。『痴愚神礼讃(らいさん)』では「どれほどさまざまな商売、どれほどの莫大(ばくだい)な収穫と、大海をも埋め尽くすほどの財貨」と、言い尽くせないほどの利権を手にした教皇を、類いまれな筆力で痛烈に批判している。この本が出版されたのは、ルターが宗教改革の狼煙(のろし)を挙げた1517年より8年も前のことである。 「エラスムスが卵を産み、ルターがそれを孵(かえ)した」宗教改革は、ルターによって「似ても似つかぬ雛(ひな)」(プロテスタントという巨大