「数値目標」が判断を誤らせる タレントで弁護士の橋下徹氏は財政再建を旗印に選挙戦を戦って大阪府知事に当選しました。2008年2月6日に行われた知事就任後最初の記者会見で橋本氏は「財政非常事態宣言」を出しています。今回はまず、この「非常事態宣言」という言葉に注目してみましょう。 辞書で調べると「非常事態宣言」とは、主として国家の運営が何らかの理由により破綻の危機に瀕し、これに対して「平時の法制を超えた措置を実施すること」を最高責任者が発令するものとされます。テレビの演出にも通じているはずの橋下氏やそのブレーンたちは、あくまで比喩、ないしキャンペーンとして、この「非常事態宣言」という言葉を使ったのでしょう。しかし、言葉の定義を厳密に考えるなら、これは大変に不用意なことです。なぜなら選挙という民主的な手続きで選ばれたはずの候補者が、知事に就任早々「平時の法制を超えた強権」の発動を宣言してい
道路特定財源の暫定税率廃止は、わずか1カ月の短命に終わってしまった。だが、国会でのやりとりのなかで、それまで知られていなかった道路特定財源の実態が明るみに出てきただけでも意義はあったといえよう。 わたしが詐欺的だと思うのは、道路特定財源のうち道路整備以外に6000億円もの金がつぎ込まれていた点である。なかでも注目したいのが、道路担当の国土交通省職員用の宿舎を、民間から借り上げるために支払われた金である。 宿舎は全国で145戸あり、家賃として昨年度は総額1億5114万円が道路特別会計から支払われていたという。これに対して、入居した職員が支払った家賃の総額は1971万円。この差額である1億3143万円が道路特別会計の公費負担ということになる。 わかりやすいように、1戸あたりに直してみよう。国土交通省は、民間から月8万7000円で宿舎を借り上げて、それを職員にわずか月1万1000円で貸して
第19回 無知な経済学者・政治家が農民たちを苦しめる! ノンフィクション作家=島村 菜津氏 緑の革命によって破壊されたもの タージ・マハールの一角で夕日を眺める人 (クリックすると拡大した画像が開きます) 環境運動家のヴァンダナ・シヴァは、自身が主宰するナウダンヤ農園のすぐそばにある実家の庭で、インタビューを受けてくれた。 墨色のTシャツに、赤いサリー。デリーの町中で見かけたナーガラジャ神のような丸い顔に、太い眉のはっきりとした顔立ち。かすかにインドなまりの残る、イギリス仕込みの流暢な英語。話に熱がこもると、大きな目がさらにぎらりと見開く。 シヴァは、緑の革命を批判した自著『緑の革命とその暴力』(日本経済評論社)の中で、こう書いている。 「緑の革命がなければ、飢えに見舞われるということは、一九六〇年において真実ではなかったが、一九九〇年代においても、バイオテクノロジーと遺伝
温暖化が加速する世界の水問題 水資源国・日本の幻想(前編) 文/藤田 香(日経エコロジー) 地球温暖化は世界の水資源量の分布地図を塗り変える。日本では既に洪水と渇水が頻発し、水の調達が困難で工場を閉鎖する企業も出てきた。農畜産物という形で大量の水を輸入する日本にとって、世界の水不足への対策は喫緊の課題だ。 1つの河川の渇水が利水企業に数十億円の損害を及ぼす事態が発生している。 一方、世界の水問題は食料輸入大国である日本の安全保障にも直結する。 出所:国土交通省「平成19 年版日本の水資源」 四国山地を源流とし、徳島県を流れ下る那賀川は、上流域の年間降水量が3000mmと国内平均を大幅に上回る多雨地域だ。豊富な水を見込んで、日本製紙や王子製紙、倉敷紡績、日本電工など10社の工場が立地し、工業用水を得ている。 ところが2007年10月、日本製紙グループ本社は、この地域にあるコピ
国立環境研究所 地球環境研究センター 江守 正多 氏(前編)温暖化の影響は、気付かないうちにじわじわとやってくる ●エアコンの設定温度に気をつける、車のアイドリングをしない、エコバッグを持ち歩く……地球温暖化を防ぐため、できることから努力するというのはもはや常識だ。近頃では「何もしていない」など、堂々と言うのは恥ずかしい風潮にすらある。 ●しかし、地球温暖化はどの程度進んでいて、この先は一体どのような未来が待っているのか? そもそも、地球は本当に温暖化しているのか? 今の科学で解明されていること、あるいは予測されていることを、私たちは実際のところ、どの程度きちんと認識しているのだろうか。 ●そんな基本的な疑問を整理し直し、自らの問題意識として捉え直すべく向かったのは、茨城県つくば市にある「独立行政法人 国立環境研究所 地球環境センター」である。そこで話をうかがったのは、温暖化リス
中国といかに向き合うか 胡錦濤訪日の意味を考える 4月29日から4日間、中国へ行ってきた。 今回は、中国中央電視台という、NHKのような放送局で、日本人3人と中国人3人での討論会を行った。日本側は僕が司会を務め、中国側は中国中央電視台キャスターの白岩松(ハクガンショウ)氏が司会を務めた。彼は、中国13億人のうち7億人が彼のことを知っているという、中国のナンバーワンキャスターだ。 日本からは、僕と、元外務省で、現在は外交評論家の岡本行夫さん、元外務省アジア大洋州局長で外務審議官も勤めた田中均さんが参加した。田中さんは、小泉純一郎元首相が北朝鮮へ行ったときのお膳立てを全部やった人物だ。中国側は白岩松氏のほかに、元駐日本中国大使を務めた徐敦信(ジョトンシン)氏、中国外交学院院長の呉建明(ゴケンミン)氏が出演した。 前代未聞の大討論会 これはまさに中国中央電視台始まって以来の、前代未聞の
前回コラムで、たばこを購入するときに必要となる成人認証ICカード「タスポ」の理不尽さを指摘した。思いがけず多くのコメントをいただいた。ものかきとしては反響があるのは最大の喜びなのだが、言い足りなかったポイントをあえて追加したい。 それは、「タスポ」が象徴する官僚システムの「思い上がり」についてである。筆者が「タスポ」を問題視したのは、たばこ購入という個人の嗜好に属する部分に、官僚がずかずかと土足で入り込む、そのいかがわしさ、おぞましさに対してである。 コメントで「タスポ」賛成の方の大半は非喫煙者である。日ごろ、たばこの「煙害」に悩まされておられるのだろう。未成年への販売を規制するのも大事だろうが自動販売機そのものをなくせ、という意見も少なくなかった。 筆者の立場を明らかにしておかないとフェアーではないと言われそうだから、あえて書く。当方は、アルコールは体質的に受け付けないが、ヘビース
編集協力/セコム IS研究所 甘利 康文氏 STEP総合研究所 主任研究員 川嶋 宏昌氏 文/茂木 俊輔、写真/齊藤 哲也 4月16日 研究を重ねて建てた“防犯住宅”は完ぺきか――。今回診断にうかがった戸建て住宅は、防犯意識の高い建築主であるQさんが研究に研究を重ねて造ったものだ。 1階と2階をぱっと見ただけで、どの窓にも一定の防犯性能があることを示す「CPマーク」が張られているのが分かる。泥棒にとってはなかなか手ごわそうな構えだ。それでもQさんは、「侵入される恐れがあるかどうか、専門家に診てほしい」と言う。不安を完ぺきに拭い去りたい様子だ。 二人の専門家、セコムIS研究所の甘利康文氏とSTEP総合研究所主任研究員の川嶋宏昌氏とともに訪れたのは、分譲から30~40年経過してそろそろ建て替える家も出てきた住宅地。駅からは10分程度の距離にあり、人や車がそこそこ行き交う通り沿いにある。実家
空席が続いていた日銀総裁に白川方明副総裁が昇格した。政府としては、4月11日に開催された先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)に総裁という肩書で出席させたいという意向があったのだろう。そのために、民主党の案を飲んで、財務省出身者の総裁就任をあきらめた。民主党にとっては思惑通りの総裁選びが実現したわけだ。 たしかに、福田政権が財務省出身者を総裁候補に推していた点については、いろいろな問題はあるだろう。一部のメディアが指摘しているように、「自民党が財務官僚の天下り先確保に手を貸している」という面がないわけではない。日銀総裁という絶好の天下り先をキープしたいという思惑が財務省にあることは事実だし、福田内閣の財政再建路線をみれば、財務省に配慮していることは明らかである。 だが、そうした点を考慮に入れても、財務省出身者を排除して白川総裁が誕生したことにわたしは失望している。バリバリの日銀出身
第1回 環境省大臣官房長 小林 光 氏のエコな自宅を探訪 ●太陽など自然エネルギーを利用した住宅、自然素材の住宅、断熱による省エネ住宅……地球温暖化の危機が叫ばれる今、それらの「エコハウス」が注目を浴びている。「エコハウス」は、CO2をはじめとする環境負荷を軽減するだけでなく、住人の健康や、“省エネ=光熱費節約”という点で経済的にも優れた威力を発揮する、魅力的な物件だ。そこで我々もエコサイトとして、こう力強く提案したい。「今、住むならエコハウスだ」と。 ●しかしながら、実際のところのエコハウスの住み心地はどのようなものなのだろうか? 「環境のことを考えすぎるあまり、暮らしにくい家なのでは?」、「莫大な費用がかかるのでは?」、「新しく建て替えないとエコハウスにはできないの?」など、様々な疑問が沸いてくるであろう。 ●そんな疑問にお答えすべく、このシリーズでは、実際に「エコハウス」に
第32回 仏ナント市に学ぶ最先端の都市交通 モータージャーナリスト=清水 和夫 氏 世界で最も進んだ都市交通を持つナント市 “花の都”として知られるフランスの首都パリから、TGV(高速列車)で2時間ほど西に移動すると、大西洋に面したロワール川の河口に広がるナント市(Nantes)に着く。飛行機でも自動車でもアクセスが良いので、ナント市へは多様な移動手段で行くことが可能だ。 さて、このナント市の名物は歴史的な建造物だけではない。10年くらい前から「渋滞がない都市」としても知られるようになった。渋滞のない街なんて、夢のような話だが、果たしてどのような政策やシステムで成り立っているのか、ナント市の都市交通の実態と市民の生活ぶりをレポートすることにしよう。 ナント市はフランスでも歴史が古い街だ。キリスト教の新教徒に対して信仰の自由を認めた「ナントの勅令(1598年)」は特に有名だが、近年
第32回 「イーメーターズ」の巻 ライター=福光 恵 氏 地球にやさしい人力ビークル、 自転車をもっと楽しく 都心に春がやってきた合図といえば、今や桜の開花より、自転車通勤の人が増えること。自転車通勤といっても、駅まで自転車で、というのは昔の話。最近は10kmくらいの距離なら、家から会社まで自転車で直行というのがトレンドだ。 私の場合は、ダイエットを始めるたびに、ママチャリをリンリン飛ばしてどんな遠くの取材先でもひとっ飛びという、にわか自転車ツーキニストをやってきた。いろんなところに行った。たとえば高級ホテルとか、首相官邸とか。 ちょっと前までそうした都心の施設に自転車で出かけると、自転車置き場がないために、警備員さんたちをそれは困らせたもんだ。とあるホテルではこんなこともあった。自転車を置く場所が見つからず、警備員が「では、お預かりします」と、どこかに運搬。 帰りがけ、ロ
第99回 袋叩きの社会保険庁を少しだけ擁護する 株式会社武蔵野 社長 小山 昇氏 2008年4月1日 近ごろ、年金問題を巡る議論がかまびすしいようです。未統合・未整理のままの年金記録は約5000万件にも及び、もはや照合すらできなくなっている。そのために年金の支給漏れなどの問題も発生している。問題の発覚時、早期解決を約束した政治家も、選挙が終われば平然と公約を翻した ―― などなど。当のわたしはというと、世間の騒ぎをよそにまるで無関心でした。「ちゃんと払っている」「きちんと管理してくれているはずだ」と、なんの根拠もなく信じていた。 そんなわたしの能天気ぶりを心配したのでしょう、妻がわたしの年金記録を実際に調べてみたところ、恐ろしいことが分かりました。厚生年金支払記録のかなりの部分が消えていた。確認が取れたのはダスキン城西に勤務していた29カ月(1985年〜)、そして武蔵野に再入社した19
第2回 “普及委員”が実感。ヒートポンプでECO キャスター=生島 ヒロシ 氏 200年前からあった技術が花開いた!? 空気の熱でお湯を沸かすヒートポンプ 「空気の熱でお湯を沸かす」 このフレーズ、覚えはありませんか? CMで耳にしたり、雑誌や新聞で見たことがある人は多いのではないでしょうか? 空気の熱を使うというからには、経済的にもお得そうだし、環境にもやさしそう――そんなイメージですよね。 でも、空気の熱で本当にお湯が沸くの? どういうしくみになっているの? 素朴な疑問を抱いていたところ、「財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター」から僕に「ヒートポンプ・蓄熱普及委員」になりませんか、という仕事の依頼が。 ヒートポンプ? つまり、熱を汲み上げるということ? 馴染みのない言葉に、僕の「知りたい」欲望がムクムクと湧いてきました。早速、さまざまな資料を取り寄せ調べてみる。すると
当連載の110回、「コソボに見る21世紀の国家の形」で、わたしはコソボ問題について述べた。コソボはバルカン半島の国家・セルビアの一自治区であり、セルビアからの独立問題で揺れている。当該コラムの執筆は今年(2008年)の1月だが、それから3カ月近くが経過した現在、前にも増して独立の動きが活発になってきた。 契機となったのは今年2月17日、コソボの一方的な独立宣言である。米国はいち早く支持を表明、EU各国でもドイツなど有力な30カ国以上が支持を表明している。しかし、セルビア国内ではまだ独立に反対しているため、EUはセルビアに内政支援の拡充や経済的な関係強化を提案している。つまりはEU加盟をカードにしてセルビア民族派の譲歩を求めたという構図である。 セルビアでは、独立に反対しているタカ派のコシュトニツァ首相が辞任を表明した。一方、大統領の座にあるダディッチ氏は、コソボ独立を容認している。ダデ
第70回 急膨張する中国の軍事力に正面から向き合え! 国際問題評論家 古森 義久氏 2008年3月11日 米国防総省が2008年度の「中国の軍事力」報告書を発表した。3月3日のことである。 ちょうどこのタイミングは翌3月4日のスーパーチューズデー(特別の火曜日)と呼ばれる20以上もの州での大統領選挙予備選の行事とぶつかり、この報告書の内容がメディアで詳しく報道されることが少なかった。とくに日本のマスコミではそのようだった。 しかし中国の軍事力増強の実態を詳細に伝えるこの年次報告書の内容は、米国の対外戦略にとっても、日本の安全保障にとっても、きわめて重要である。周知のように、中国の軍事動向は秘密のベールに包まれている。中国当局は国防白書に似た文書は出すことがあっても、具体的な兵器類の調達などにはまったく触れることがない。だから日本側も、国際社会の大方も、中国の軍事について考えるときは、米国政
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