「その女性は、いかにも知的なユダヤ女という顔つきをしていた」という、私立探偵のモノローグからはじまるハードボイルドである。彼女は、行方不明になった妹を捜してほしいという。それ自体は、よくある依頼だ。 しかし、その妹が行方不明になった経緯が、いささか面倒だ。1933年の大転落によって、ドイツは共産国家へと変貌し、依頼者である女(イザベラ・ルービンシュタインという名だ)の父親の財産も取り押さえられてしまった。しかし、父はその人脈を駆使して、かなりの金をロンドンに移し、家族もドイツを脱出できた。そのなかで、妹ジュディスだけが取り残されてしまう。彼女は大転落前に共産主義にかぶれ、父を激怒させていた。それでも父は、ジュディスが国外へ出られるように密航の手はずを整えたのだ。ところが、シュディスはロンドンに到着しなかった。どこへ消えたのか? それにしても、よりによってそんな案件を、このわたしに持ちこんで