文:永井一樹(附属図書館職員) もう20年以上前の、私が高校生の時の話である。ある日、私は近所に住む友達に招待されて、彼の家で晩御飯をご馳走になった。広い和室のリビングで、一家の団欒に加わっていたとき、突然部屋の電話が鳴った。受話器を取ったのは、彼の母親だった。電話は部屋の片隅にあり、まだ買ったばかりと思われる真っ白なコードレスの子機が親機のすぐ横に置かれていた。その電話は彼の父親にかかってきたもので、彼女は、そのとき隣室でくつろいでいた父親を呼んだ。すると、驚いたことに、部屋の向こうから「よっこらせ」というかけ声が聞こえてきたかと思うと、股引姿の父親がぬっと現れ、母から子機を受け取ると、母が立っていたその場所で、話をし始めたのである。 私がさらに驚いたのは、そのとき友達も友達のふたりの妹も誰も、父と母のその行動につっこみを入れなかったことである。 ところで、15世紀中頃にヨハネス・グーテ