小生が特別にこの賞を光栄に思うのには訳があります。 この土地で「なぜ二十年も働いてきたのか。その原動力は何か」と、 しばしば人に尋ねられます。人類愛というのも面映ゆいし、 道楽だと呼ぶのは余りにも露悪的だし、自分にさしたる信念や 宗教的信仰がある訳でもありません。良く分からないのです。 でも返答に窮したときに思い出すのは、賢治の「セロ弾きのゴーシュ」の話です。 セロの練習という、自分のやりたいことがあるのに、次々と動物たちが現れて 邪魔をする。仕方なく相手しているうちに、とうとう演奏会の日になってしまう。 てっきり楽長に𠮟られると思ったら、意外にも賞賛を受ける。 私の過去二十年も同様でした。 決して自らの信念を貫いたのではありません。 専門医として腕を磨いたり、好きな昆虫観察や登山を続けたり、日本でやりたいことが 沢山ありました。それに、現地に赴く機縁からして、登山や虫などへの興味でした