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太宰治 ろまん燈籠
その一 八年まえに亡(な)くなった、あの有名な洋画の大家、入江新之助氏の遺家族は皆すこし変っている... その一 八年まえに亡(な)くなった、あの有名な洋画の大家、入江新之助氏の遺家族は皆すこし変っているようである。いや、変調子というのではなく、案外そのような暮しかたのほうが正しいので、かえって私ども一般の家庭のほうこそ変調子になっているのかも知れないが、とにかく、入江の家の空気は、普通の家のそれとは少し違っているようである。この家庭の空気から暗示を得て、私は、よほど前に一つの短篇小説を創ってみた事がある。私は不流行の作家なので、創った作品を、すぐに雑誌に載せてもらう事も出来ず、その短篇小説も永い間、私の机の引き出しの底にしまわれたままであったのである。その他にも、私には三つ、四つ、そういう未発表のままの、謂(い)わば筐底(きょうてい)深く秘めたる作品があったので、おととしの早春、それらを一纏(ひとまと)めにして、いきなり単行本として出版したのである。まずしい創作集ではあったが、私には、いまで