『秀(ひい)でた遺伝子』 佐久間象山と宮本家の人々《下巻》

梅原 逞 作 『 秀（ひい）でた遺伝子 』《下巻》 梅原 逞 著 ＝佐久間象山と宮本家の人々＝ 二十四、桜賦と開国 幕末の時代を生きた人々の話は、これまでにも数多くの物語に描かれている。それ故に時代を飾った人々の話は、ここではこと細かく探るまでもないと思う。しかし黒船来航からの十年余りの間、人々は激流の中へと放り出された小船に似て、日本中が逆巻く波に弄ばれ激突を繰り返し、押し寄せた新しい時代の浪間で翻弄された時代であった。 それだけにこの頃の混乱を、黒船の来航に求める事は容易いのだが、しかし黒船の来航は一つのきっかけに過ぎないと私には思える。寧ろこの国が未来に向かって歩くことを止め、自らを東洋の端にある小さな島の中に閉じ込めた結果、海の向こうにある世界の存在を、否応無く受け止めざるを得なくなった、ただそれだけの事ではなかったのか。 言い換えれば脅威を持った外敵がそれまで現れなか