近年、古代・中世を研究する人文科学系の研究者たちは、空間と時間の感覚という問題に熱心に取り組んでいる。明らかになったのは、様々な社会が、それぞれの空間と時間の関係(クロノトポス)のモデルを有し、それは、個々の社会だけではなく、その社会的諸集団の最も重要な価値の置きかたにも反映しているということである。クロノトポスは、普遍的であらゆる人間社会に固有の概念であるため、文化を比較する際のきわめて便利な指標であることがわかる。 たとえば、好戦的なローマは、侵略的で無限に拡大する空間モデルの構成の好例であり、また、貴族的でデリケートな平安時代の日本では、空間を首都の範囲内、さらには宮廷内にまで狭めて捉えていたが、それはそれ以外の残りの領土はすべて、重大な事柄の起こりえない空間として考えられていたためである。伝統的なしきたりを持つ社会の多くは、その理想を神話や叙事詩の、過ぎ去った「黄金時代」に求めるが