世の中には、経済学者は数学的な理論から厳密に演繹して経済政策を論じていると思っている人も多く、経済学者にもそう錯覚している人がいる。しかし実際には、「デフレは日銀の金融政策が原因だ」という理論も、その逆に「中国などからの輸入物価の低下が原因だ」という理論も、実証研究も存在する。経済学の理論や統計なんていい加減なので、どんな仮説でも検証できるのだ。 その仮説を決めるのはデータではなく、経済学者の直観である。本書の仮説は、「金融政策の失敗も大きかったが、本質的な問題は実体経済の改革だ」というもので、林文夫氏のグループとメンバーが重なる。実際には、林氏の本に収められた実証研究は、必ずしもHayashi-Prescottを支持しておらず、本書で吉川洋氏もいうように「マクロ経済が新古典派的な均衡状態にあるという[林氏の]RBC理論は全く根拠を持たない空論である」(p.138)とみることも可能だ。