昼間、神保町の小宮山書店に入ったらだいぶ様変わりしていて、一階に写真集、二階に美術、建築、図録などを置いていた。それより上の階も変わっているだろう。まだなんとなく本と棚が落ち着かない感じの二階の棚を眺めていたら、矢内原伊作のエッセイ集があった。『歩きながら考える』(みすず書房、1982年)。ちなみにこれは献呈本で、「湯川佳一郎様 恵存 矢内原伊作」とあった。ネット検索してみると、湯川佳一郎というのは法政大学の元教授のようで、昨年亡くなっている。同じく法大で教鞭を執っていた矢内原が同僚に贈ったものが遺品となった結果、ここにあるのだろう。矢内原伊作はジャコメッティのモデルになったことで名が通っているけれども、書くものもそこそこ面白い。「先生は歩きながら考えるんですか、とN嬢がきく。いや何も考えない、と私は答えた。何も考えないようになるために私は歩く」(p.46)そういう哲学者。